『TOP GUN: MAVERICK』について語る:ニワカが調べた小ネタ集その5(台詞編)

トップガン マーヴェリック(以下、『TGM』)』に限らず外国語映画で当然起こりうることですが、本作でも、日本語字幕と日本語吹替とでは若干ニュアンスが異なる内容になっています。

筆者は普段洋画は殆ど字幕でのみ観るのですが、『TGM』は珍しく字幕と吹替の両方で、それもいずれも複数回観て、それぞれ情報の量や内容の違いが面白かったので、主だった点をメモします。当然ながら、字幕と吹替のどちらの翻訳が正しいとか誤っているとか、そういう指摘ではありません、念のため。

何回か観てからは鑑賞時に(手元は見えないのであてずっぽうで)メモ帳に殴り書きしながら観たのですが、記憶違いの箇所もあるかと思います。また、英語の解釈も含め、誤っている点がありましたらご指摘いただけると幸いです。

以下、

英語音声=英語
日本語字幕=字幕
日本語吹替=吹替

と省略して記載します。

また、台詞は斜体で表記します。

マーヴェリックが通信障害を演じてみせたときのホンドのセリフ

字幕では単に「曲率のせいで…」となっていますが、吹替では「これは地球の曲率によって生じるいわゆる地球バルジのせいで…」と早口で説明しています。英語でも"bulge"(膨らみ)と発音しており、文字数の都合もあって字幕では吹替ほどのニュアンスが含まれていない模様です。

ダークスターに対する呼びかけ

マーヴェリックがダークスターに搭乗中、機体に対して何度か"sweet heart"と呼びかけます。直訳すると「恋人」とか「愛する家族」とか、そういう愛情を込めたニュアンスになるイメージですが、本作では字幕・吹替ともに「相棒」になっていました。大事に思っているパートナー、みたいなところですかね。

作戦の根拠について

他国の領土に侵入してウラン濃縮プラント施設を破壊するという本作の作戦について、なぜ米海軍がその施設を攻撃することになったのか(して良いのか)、その根拠になるポイントです。
吹替ではベイツ少将が「核不拡散条約違反の…」と言及するのに対し、字幕にはこの条約名(正式には「核兵器の不拡散に関する条約」。Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)そのものはありませんでした。
英語では「複数のNATOの条約(treaties)違反」と言っている気がするので、吹替の方が意訳なのだと思われます。

ハングマンとボブのやりとり

ペニーの経営するバー「The Hard Deck」でハングマンとフェニックスらが会話している際に、横にいたボブに気付いたハングマンが、ボブに対し"Stealth Pilot?"みたいなことを言います。
ステルス(=隠密)のニュアンスにボブの「存在感のなさ」を含んで揶揄しているシーンかと思いますが、ここは字幕では「パイロットか」とだけでした。

これに対してボブは"Weapon Sytem Officer."(WSO:兵装システム士官。F/A-18Fスーパーホーネットの後席に座る)と真面目に答え、ハングマンに"With no sense of humor."と言われてしまいます。ハングマンのこの返しは「冗談の通じない奴」「笑いのセンスがない奴」みたいな意味ですが、字幕では「ウソだろ?」となっていました。

いずれも、吹替の方では元のニュアンスを取り入れた表現になっていたので、掛け合いの妙がわかりやすかったと思います。

ちなみにその後のボブ、時にいじられつつもハングマンの冗談に言い返したり、チームにも馴染んで作戦でもきっちり仕事して…いい役どころでしたね。

カザンスキー邸にて

アイスに呼び出されて彼の自宅を訪れたマーヴェリックは、アイスの妻・サラと挨拶のハグをした後、アイスの病状(病名は名言されませんが、癌と思われる病気の再発)を話したサラに対し、"Sarah, I’m so sorry"と述べます。
これが字幕だと「辛いだろう」とサラを気遣う内容なのですが、吹替では「残念だよ」でした。
確かに病気の再発は残念な事柄ですが、吹替の表現だとまるでアイスがもう亡くなったかと勘違いしてしまいそうなニュアンスに感じました。

ちなみにこのサラ・カザンスキー、マーヴェリックが随分親しげに挨拶するので「もしかしてアイスの彼女として前作のどっかに出てたっけ?」と思ったのですが、今作にて設定され初登場したキャラのようです。

キャロル・ブラッドショーの死について

マーヴェリックがルースターの海軍兵学校への願書を破棄した(吹替では「抜いた」)理由について、ペニーにそのことを打ち明けるシーンの台詞です。ルースターとマーヴェリックが「The Hard Deck」でニアミスしたシーンの時点で、ルースターの演奏する"Great Ball of Fire”を耳にしたマーヴェリックの様子がおかしいことにペニーは気付き、彼らの間に何かわだかまりがあることを察していたのでしょう。父親が司令官であるという設定もあり、劇中では海軍(しかも上層部)の裏事情にやたら詳しい(そして耳が早い)ペニーですが、この点については初耳だったようです。

マーヴェリックは、ルースターの母親であるキャロル・ブラッドショーが、息子には飛んで(=パイロットになって)欲しく無いと考えていたこと、彼女とマーヴェリックは彼女の亡くなる前に彼(後のルースター)をパイロットにしないと約束した、とペニーに明かします。字幕はほぼこの通りの内容になっています。つまり、マーヴェリックがルースターの「願書を破棄した」時点で既にキャロルは亡くなっており、マーヴェリックがその理由を一人で背負っていた、というわけです。

一方、吹替では、そもそもキャロルが既に亡くなっていることが情報として抜けており、彼女の現在の様子がはっきりしません。キャロルが存命であったならば、グース亡き後のルースターの進路について、当然母親として関わっている(マーヴェリック一人に任せない)と考えるのが自然な気がします。

このように、観客が「キャロルが亡くなっていることを知っているかどうか」によって、本作におけるマーヴェリックとルースターの間のわだかまりに関する印象がだいぶ違うのでは、と思います。

なお、これより前にあるマーヴェリックとアイスの会話のシーンでは、ルースターに対する処遇について二人の間に共通認識がある(マーヴェリックが以前からアイスに相談していたらしい)ことが伺えます(劇中では後に明かされる上記の事情について、特段説明せずに二人の話が進む)。
前作でグースが死亡した事故には、アイスも関わっていた(アイス機の起こしたジェット後流によってマーヴェリック・グース機のエンジンがストールした)ので、アイスも罪悪感を感じて相談に乗っていたのかも知れません(前作でもアイスが事故後のマーヴェリックを気遣うシーンがあります)。もしくは単に一人の親しい友人として、かも知れませんが。

アメリアの台詞

マーヴェリックとペニーがベッドで上記の会話をしている最中に帰宅したアメリア。慌てたペニーが「カレン(友達)の家に泊まるんじゃなかったの?」と聞くと、アメリアは「カレンの具合が悪くて。宿題もあるし」と答えますが、字幕では「宿題〜」のくだりは抜けています。また夕食について「どこかに食べに行く?」とペニーに尋ねるのですが、そのニュアンスも字幕にはありません。

いずれも本筋に殆ど関係ない点ですが、バーでもテストのための勉強をしているあたり、アメリアが真面目に学業に取り組んでいる(=ペニーとの関係が以前より良好である)ことを示唆しているシーンとも取れます。

マーヴェリックとルースターの言い合いの場面

本作の物語において中心的なパートを占めるマーヴェリックとルースターの関係において、両者の間のわだかまりが明らかになるシーン(フェニックス・ボブ機の墜落後)ですが、シンプルなセリフの表現において字幕と吹替とでニュアンスが異なります。

Maverick: "(前略)Believe me."
Rooster: "My dad belived in you, I'm not gonna make same mistake."*1

字幕は「父はあなたを信じて死んだ」でしたが、吹替では「死んだ」のニュアンスまではありませんでした(確か「俺は同じ間違いはしない」といった直訳に近い台詞だったかと)。これは吹替の方が英語の台詞どおりということになります。

映画『トップガン マーヴェリック』ファイナル予告より。

ただ、グースの死について、劇中では(前作でも)マーヴェリックの過失では無いことが説明されていますが、マーヴェリックはやはり自分を責め続けており、ルースターも父の死亡事故に直接関わっているマーヴェリックに対し(願書の破棄の件も含め、かと思いますが)思うところがあって、グースの死が二人の関係に大きな影響を及ぼしていることは明らかなので、字幕がおかしいというわけではありません。 

F-14 トムキャットの必殺技?

マーヴェリックとルースターが敵基地で無理やり乗り込んだF-14で空母に帰還しようとする最中の「第五世代戦闘機」とのドッグファイトのシーンで、「Split throttle!」とマーヴェリックが叫び、性能で勝る敵機に対し優位なポジションを奪うシーンがあります。

なお、この件についてはTwitterで詳しい方がつぶやいていましたので引用させていただきます。

筆者のメモでは字幕では「スロットル全開!」でした。まあ、いずれにしても叫ぶ必要は無いのですが、前作では観られなかった「トムキャットの内部機構が稼働する」カットも挿入されるので、トムキャットファンにはたまらないシーンです。

それにしてもこの「スプリットスロットル」、双発(エンジンが二つある)機ならではの技のようですが、トムキャット以外の飛行機でも使える技なんでしょうか。F/A-18E/Fスーパーホーネットではどうなんでしょう、気になります。

マーヴェリックの居場所

ダークスターの試験飛行後、ケイン少将からノースアイランド行きを命じられるマーヴェリック。

ケイン少将に「昇進もせず(できず)退役もしない」「普通なら(上院)議員は無理でも少将にはなっているのに未だに大佐だ。何故だ?」と聞かれ、「謎です」と茶化して叱られたあと、"This is where I'm belong"みたいな台詞で答えます。※下線部は吹替にのみ含まれるニュアンスで、英語の通りの意味になっています。

そして物語は進み、終盤の作戦への出撃前、マーヴェリックはベイツ少将から"You're where you belong. Make us proud."と声をかけられます。

このベイツ少将の台詞の前半、字幕では「本領発揮を」となっていましたが、結果的に前述のマーヴェリックの台詞("This is where I'm belong")に海軍がお墨付きを与えたみたいになっており、伏線回収みたいで気持ちいいです。

ちなみになぜ上記のベイツ少将の台詞(英語)を自信満々で書いているかと言うと、サントラで曲のタイトルになっているからです(出撃前のシーンのBGM。下記参照)。

youtu.be

以上、台詞についてでした。

*1:このくだりは最終予告の映像でも確認できます